第55章

「俺はこの携帯の持ち主ではありません。用件は後ほどお掛け直しください」

電話の向こうから、裕樹の馴染みのある声が聞こえてきた。

樋口浅子はその声を聞いて、長く息を吐いた。

相澤裕樹が彼女の向かいに座っているのに、電話からは裕樹の声が聞こえる。

これは、彼らが同一人物ではないという証拠だった。

相澤裕樹は彼女に嘘をついていなかったのだ。

「裕樹、あなた...」

樋口浅子は口を開き、いくつか質問しようとした。

しかし彼女が話し始めたばかりで、裕樹は電話を切ってしまった。

樋口浅子は仕方なく携帯を置いた。

彼女は相澤裕樹を帰らせてから、改めて裕樹に連絡し、昨夜のことをなぜ相澤裕...

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